人生の後半戦において、単に「健康である」こと以上に「世界トップレベルの強さ」を維持し続けることは、多くの人にとって驚異に映るでしょう。71歳でフィットネス競技「HYROX」の世界王者となった女性が実践する5つの習慣には、医学的・心理学的な裏付けに基づいた、極めて合理的な戦略が隠されています。
彼女の生き方を支える「しなやかな強さ」の正体を、5つの視点から紐解きます。
1. ハイブリッドトレーニング:加齢に抗う「動ける体」の土台
彼女は筋力トレーニングと有酸素運動を組み合わせた「ハイブリッドトレーニング」を最優先しています。
- 医学的には、筋力トレによる筋密度維持(フレイル予防)と、有酸素運動による心肺機能強化を同時に行うことで、多角的に身体機能の低下を防ぎます。特に「重りを持って歩く」といった**ファンクショナルフィットネス(機能的トレーニング)**は、日常生活に直結する動的な筋力を養い、単なる見せかけではない「動ける体」を作り上げます。
- 専門的視点からの反論
週6回の高頻度負荷に長距離サイクリングを加える量は、一般的にはオーバーユース(使いすぎ)による炎症や疲労蓄積のリスクを高めます。マスターズ競技者は若年層より回復に時間を要するため、個別の負荷管理が不可欠です。また、持久系と筋力系を同時に追い込みすぎると、互いのトレーニング効果を相殺してしまう可能性(干渉効果)も指摘されています。
2. 「制限しない」食事:持続可能なエネルギー源
食事の基本はホールフード(未精製食品)ですが、厳格な制限や計算は行いません。
- 心理学的に、過度な制限を設けないことで「食事=ストレス」になるのを防ぎ、長期的な継続を可能にします。医学的にも、未精製の食品から微量栄養素や食物繊維を摂取することは、安定したエネルギー供給と腸内環境の維持に寄与します。「心の満足」と「身体の栄養」を天秤にかけないバランス感覚が、真の健康を支えています。
- 専門的視点からの反論
高齢になると喉の渇きや空腹感のセンサーが鈍るため、直感に頼ると「たんぱく質不足」や「低エネルギー状態」に陥る危険があります。特に運動習慣がある高齢者の場合、体重1kgあたり1.2g以上のたんぱく質摂取が推奨されますが、無計画な食事ではこれを下回りやすく、結果として筋量減少や骨の健康悪化(RED-S)を招く恐れがあります。
3. ストレッチとモビリティ:パフォーマンスを支える「しなやかさ」
ワークアウト後の10分間のストレッチを、彼女は「交渉の余地がない」ほど重要視しています。
- 加齢とともに低下しやすい関節の可動域を維持することは、効率的で力強い動きの鍵となります。医学的視点では、運動後のストレッチは副交感神経を優位にし、疲労回復を促進する効果もあります。柔軟性は、怪我を防ぐための物理的な防波堤なのです。
- 専門的視点からの反論
静的ストレッチが全体の外傷発生率を下げたり、筋肉痛を大幅に改善したりするという明確なエビデンスは乏しいのが現状です。主要な回復手段としてストレッチに過度な期待を寄せるよりも、睡眠や適切な栄養、負荷の漸増に重きを置くべきだというメタ解析的なまとめも存在します。
4. 逆境を力に変える:レジリエンスの力
怪我や困難に直面した際、彼女はそれを「自分の体への感謝を深める機会」へと昇華させます。
- これは心理学における**「レジリエンス(回復力)」そのものです。怪我をした際に「辞退」するのではなく「今の自分にできる最善」を再設定するリフレーミング**の技術が、挫折による精神的ダメージを最小限に抑えます。苦闘を強さに変えるマインドセットこそが、彼女を何度も表彰台へ押し上げる原動力です。
- 専門的視点からの反論
痛みを「前向きな力」と定義しすぎると、身体からの警告信号を過小評価し、悪化させる原因となります。彼女の成功の背景には、精神論だけでなく「理学療法士との連携」という現実的な医療介入があった点を見逃してはなりません。専門家の支援なき精神論は、単なる無理な継続を正当化するリスクがあります。
5. ライフスタイルとしてのフィットネス:社会的動機づけ
運動を「ToDoリストのタスク」ではなく、人生に不可欠な一部として捉え、志の高いコミュニティに身を置いています。
- コミュニティの存在は強力な社会的動機づけとなり、行動の一貫性を生みます。ジムを「自分が最もパワフルだと感じられる場所」と定義することで、自己効力感(自分ならできるという感覚)が高まり、精神的な若々しさが保たれるのです。
- 専門的視点からの反論
競争的なコミュニティでは、劣等感や「休めない」という心理的ストレスが生じやすく、それが過負荷による障害(オーバーユース)を招くという研究もあります。仲間がいることが「痛み申告や休養」を歓迎する文化であるかどうかが、健康維持の分かれ目となります。
結論:しなやかな大樹のように
これらの習慣の本質は、「身体の機能維持(医学的)」と「心の充足と適応(心理学的)」の完全な調和にあります。
彼女の快挙を支えているのは、単なる「5つの習慣」ではありません。
• 数十年にわたる運動歴という「積み重ね」
• 週6回の運動を許容する生活構造と資源
• 年齢区分(Age Group)という適切な戦場選び
• 専門家(理学療法士)との連携による適切な修正力
71歳での快挙は、加齢を拒絶するのではなく、変化を楽しみながら適応していく「生涯にわたる旅」の通過点に過ぎません。
これらを抜きにして「習慣を真似れば若返る」と考えるのは早計です。彼女の物語から私たちが学ぶべきは、個別のメソッドではなく、**「自分の身体の現在地を知り、専門家の知見を借りながら、生涯を通じて適応し続ける設計力」**であると言えるでしょう。
Anti-Aging man