「7~9回目の施術でようやく効果が出る」と言われることが多い一方、実際には5~6回目あたりで“ひげが急に薄くなった”と感じる人も少なくありません。本記事では、その体感的ギャップの理由を、医学的根拠に基づき具体的に解説します。特に、35歳・アトピー肌・全体12回コース・元のひげは濃いという条件を前提に、論理的に紐解いていきます。
1. 毛周期の基礎を理解すると回数が必要な理由が見えてくる
成長期(アナゲン)は、毛母細胞が分裂し毛が太く長く伸びる期間であり、メラニン量が多いためレーザーに最も反応します。顔ひげでは常時15〜30%がこの時期にあります。
退行期(カタゲン)では毛球が縮小し、メラニンも減少するためレーザー効果が下がります。
休止期(テロゲン)は毛が自然脱落し、毛根が一時的に休眠するためレーザーの効果はほとんどありません。
1回の施術で反応するのは成長期の毛だけなので、複数回の施術が必要になります。
2. 3~5回目前後で密度が減ったと感じる理由
2-1. 毎回違う成長期毛に照射されることが密度低下の鍵です。成長期の毛が毎回入れ替わるため、3回目の時点で全体の60%程度に照射されることになります。その結果、見た目の密度が1/2〜2/3に減少し「まばらになった」と感じやすくなります。
2-2. レーザーの熱作用によって毛が細くなると、光の反射量が減り、青ひげの色が薄くなります。さらに、メラニン顆粒が破壊されることで肌とのコントラストが弱まり、見た目にも手触りにも「薄くなった」という実感が強くなります。
3. 6回目前後から効果をさらに強く感じる理由
3-1. 太い毛は最初の照射で完全には破壊されず、何度か照射するうちに熱ダメージが蓄積します。5~6回目で閾値を超えると、毛乳頭やバルジ領域の幹細胞が不可逆的に破壊され、急激に発毛力が落ちるのです。
3-2. 照射回数が進むと毛が細く浅くなるため、出力を上げても痛みが減少します。その結果、より高い出力で効率よく破壊できるようになり、後半ほど効果が高まります。
4. 35歳・アトピー肌という条件が与える影響
4-1. 年齢とともに肌のターンオーバーが遅れ、炎症後色素沈着のリスクも上昇します。そのため最初の数回は出力がやや抑えられ、“効果を感じるが毛がまだ残っている”という状態になりやすくなります。
4-2. アトピー肌ではバリア機能が弱く、セラミドや水分量が不足しがちです。結果としてレーザーの熱が散乱しやすく、効率が落ちることがあります。これを補うためには施術前後の高保湿と抗炎症ケア(例 ヘパリン類似物質やプロペト)によって、肌状態を整えることが重要です。
5. 医療脱毛が美容脱毛より早く効く理由
5-1. 医療用レーザーは、波長・パルス幅ともに最適化されており、肌の深さや毛の濃さに応じて選択可能です。
- アレキサンドライト755 nmは浅部に効果的で、メラニン吸収が高い
- ダイオード810 nmはバランス型で青ひげにも有効
- Nd:YAG1064 nmは深部に届くため、顎下などに適応
さらに、医療機関では高出力設定と冷却装置を併用できるため、光脱毛(IPL)よりもエネルギー密度が高く、深い層まで届きます。
5-2. 最近の研究では、外毛根鞘のタンパク質(K15陽性細胞)にも熱変性が起き、これが成長期への移行を妨げることがわかっています。医療レーザーはこの領域にも十分到達するため、少ない回数で発毛サイクルを長期停止させる効果が期待できます。
6. 7回以降の施術が持つ意味
6-1. 顎下や鼻下は成長期への移行が遅く、毛根も深いため、最後までしぶとく残る部位です。この段階では出力最大化と波長の選択がカギになります。
6-2. 中途半端に終えると、休止期から再生した毛が太く強くなる「硬毛化」や「増毛化」のリスクがあります。12回コースを完了することは、こうしたリスクの回避にもつながります。
まとめ
- 成長期の毛がおよそ半数以上破壊され、見た目の密度が急減することで効果を体感しやすくなります。
- 熱ダメージが閾値を超えたことで毛が細く軟らかくなり、色も薄くなるため、青ひげが目立たなくなります。
- 医療用レーザーは高出力かつ深達性に優れており、特に濃いひげに対して早期から効果を発揮します。
- 35歳でアトピー肌という条件でも、適切な保湿と出力調整により安全かつ効果的な脱毛が可能です。
結論として、7回目に達する前から効果を実感できるのはごく自然な流れです。残りの回数は“仕上げと維持”の段階ととらえ、正しいスキンケアと設定を守ることで、12回終了時には深剃り不要か産毛程度まで薄くなる可能性が高くなります。
参考文献
Anderson RR, Parrish JA
Selective Photothermolysis: Precise Microsurgery by Selective Absorption of Pulsed Radiation. Science, 1983
Ross EV et al
Hair Growth Cycle Synchronization Following Laser Hair Removal. J Drugs Dermatol, 2021
日本皮膚科学会ガイドライン
皮膚レーザー治療ガイドライン(2023年改訂版)
編集後記
回数=効果ではなく、毛周期×累積熱量×肌管理という掛け算が体感時期を決定づけます。本記事が、医療ひげ脱毛に挑戦する方や中盤に差しかかっている方の不安を解消し、今後のプラン設計の参考になれば幸いです。